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推定無罪

いろいろ書きたいことも思うこともあるんですが、あいにく本日はそうした根性を切らせてしまいました。
ちょうどご飯の下準備のために作業場からキッチンに戻ってみると、次男が「そこまで言って委員会」を観ていました。この日はテーマが裁判だったみたいで「和歌山毒物カレー事件」のことを取り上げていました。
私、この裁判に興味があったんですよね。当時の日記を見るとこんな感じです。

-以下引用-


4月21日あの和歌山毒物カレー事件の林眞須美容疑者に死刑の判決が下されました。もうあれから10年以上の月日が流れています。僕はこの裁判に大きな関心を寄せていました。それはこの事件が当時世間を騒がせた事件だったから、というのではなく「状況証拠」の積み重ねだけで「死刑判決」が決定されるのだろうかというものです。
今更とは思いますが事件と裁判までの経緯を書くと以下のようです。

和歌山毒物カレー事件

<事件概要>

1998年(平成10年)7月25日、和歌山市園部(そのべ)地区で、自治会の夏祭りが催された。会場で出されたカレーライスを食べた人々が激しい吐き気と腹痛に襲われた。これにより、67人が病院で手当てを受けたが、翌26日に自治会長の谷中孝寿さん(64歳)、副会長の田中孝昭さん(53歳)、私立開智高1年の鳥居幸さん(16歳)、市立有功小4年の林大貴君(10歳)の4人が死亡するという大惨事となった。当初保健所は食中毒によるものと判断したが、和歌山県警は吐瀉物を検査し、青酸の反応が出たことから青酸中毒によるものと判断。しかし、症状が青酸中毒と合致しないという指摘を受け、警察庁の科学警察研究所が改めて調査して亜ヒ酸の混入が判明した。

<捜査・裁判概要>
住民の調査を急ぐ途中で、元生命保険会社外務員の林眞須美(当時37歳)をめぐる、多額の保険金詐欺疑惑が浮かんできた。県警は彼女を保険金目当てに知人の男を亜ヒ酸で殺害しようとしたとして、10月4日、眞須美が殺人未遂と詐欺の容疑で逮捕された。同時に、夫で元白蟻駆除業者の林健治(当時53歳)も詐欺容疑で逮捕された。2人は厳しい取り調べに対し、否認と黙秘で応じた。県警は自白が取れないので、膨大な状況証拠を積み上げる以外になかった。現場検証を繰り返し、眞須美以外の第三者が関与した可能性を次々と消していった。その結果、亜ヒ酸がカレー鍋に入れられた時間帯に、眞須美一人が鍋の番をしていたことと、紙コップを手に料理場のガレージに入り、周囲を窺うような素振りをしていたことなど、目撃証言が収集できた。
物証についてはカレー鍋や林宅などから、8点の亜ヒ酸を採取し、兵庫県の大型放射光施設「スプリング8」という最先端装置によって分析、カレーと紙コップ、林宅のプラスチック容器の亜ヒ酸と、健治らが使っていた亜ヒ酸とが同一という鑑定結果を得た。眞須美の前髪からも砒素を検出し、それが事件発生時に近い時期に付着したものと分かった。
12月9日、眞須美がカレー鍋に亜ヒ酸を投入したとして殺人と殺人未遂容疑で再逮捕された。12月29日、眞須美が和歌山地裁に起訴される。1999年(平成11年)5月13日、初公判が開かれ、保険金詐欺については認めたものの、殺人と殺人未遂容疑については、前面否認した。2000年(平成12年)10月20日、林健治に保険金詐欺で懲役6年の刑が下った。2002年(平成14年)12月11日、和歌山地裁は求刑通り林眞須美に死刑を言い渡した。弁護側は即日、控訴した。2003年(平成15年)12月25日、和歌山地裁で遺族や被害者ら計41人が総額約1億3700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決があり、礒尾正裁判長は「被告がカレーにヒ素を混入した」と認定、約1億1800万円の賠償を命じた。2005年(平成17年)6月7日、林健治が刑期を終え、出所した。6月28日、大阪高裁は林眞須美に対し、控訴を棄却。即日上告。2009年(平成21年)4月21日、最高裁で上告棄却で死刑確定。


この事件の特筆すべき点は、一貫として眞須美容疑者の自白が得られなかった事に尽きます。そのために検察は約1700点にも及ぶ目撃証言や物的証拠など状況証拠を積み重ねて眞須美容疑者が犯人であると立証しようとしました。そのため動機が不明という極めて異例の事件となってしまったのです。つまり通常は本人の自白や本人のみが知る秘密を話すなどの「積極的証拠」が全くないまま判決が下されたということになります。状況証拠については以下のような意見がありますので紹介しておきます。

「情況証拠については、供述証拠に依存しない科学的、客観的事実認定に資するものであるなどといった期待、積極的評価がある一方で、情況証拠による事実認定には推認過程が不可欠であって、その推認を的確に行うには様々な困難があるなどといった危惧、消極的評価があるなど、論者によって位置付けが一致しておらず、情況証拠は、刑事手続において、いまだ安定した好意的地位を得ているとまでは見られない。」(植村立郎「情況証拠」・『刑事訴訟法の争点(第3版)』(有斐閣、2002年)156頁)

このように状況証拠による立証は「慎重に行うべき」事柄であり、見方によって黒にも白にもなる可能性を秘めている、と言わざるを得ません。

この事件で眞須美容疑者が犯人ではなく冤罪事件ではないかと率直に感じる部分があります。その部分とはこの事件を起こす動機とメリットが林眞須美容疑者には希薄過ぎるからです。

眞須美容疑者は保険金詐欺事件でヒ素を使用していました。この事件については本人が容疑を認めています。元々はシロアリ駆除会社を営んでいた夫林健治氏が所有していたヒ素を使用してこの犯罪を行ったとしています。そのため共謀者として林健治氏も有罪の判決の後、6年の刑に服してその刑を終えています。この保険金詐欺によって林眞須美容疑者は約6億円の金を得ていたとされています。
普通の心理ならこのような犯罪を犯しているのなら、社会的に注目される「和歌山毒物カレー事件」のような事件をワザワザ自ら起こし下手をすれば保険金詐欺事件が世間の明るみに出る可能性もあるのにそんな危ない橋を渡るだろうか、という疑問です。
検察はその動機を「周囲からの冷遇による恨み」から「激昂」した結果だとしましたが、この動機は一審から否定されています。また当時「激昂」した様子は眞須美容疑者からは伺えなかったとされています。この夏祭りの手伝いを「カラオケに行きたいから」という理由でサボった結果、多少の皮肉くらいはあったかも知れませんが、その後に眞須美容疑者は氷の手配を手伝っており寧ろ積極的だったとされています。
保険金詐欺事件がどちらかというと計画的で知的犯罪に相当するのに対して、カレー事件はもし検察が主張する「激昂」だとすると衝動的犯罪でありその性格が対極にあるものです。犯罪心理からするとこのような全く違うタイプの犯罪を同一犯が行うことはかなり稀だといわれます。この点においても不自然過ぎます。
最大の謎はこの事件における「メリット」です。
それまでの詐欺事件はもちろん目的は「カネ」であり6億ものカネを手にしています。それに対してカレー事件にはカネというメリットがありません。むしろ今までの犯罪を「露呈」してしまう「デメリット」の方が強くなってしまいます。またヒ素の致死量をよく知っているはずの眞須美容疑者が入れた量にしては多過ぎるのも不可解です。保険金詐欺事件では死に至らない量をコントロールしていたにもかかわらず「死亡者」を出してしまった事実は理解しがたいものです。

これらの事にも状況証拠と同じで確たる証拠はありませんが、検察の主張と同様に「無罪」といえる状況証拠だと思われます。どう考えても事件を起こす理論性が希薄と考えたのが「冤罪」と直感した理由です。
眞須美容疑者は当時「毒婦」とまで呼ばれ「あいつが犯人に違いない」という意見が大多数でしたし現在もそう変わってはいないと思われます。しかしその証拠で特筆されるものは「カレー鍋に混入されたヒ素」と林眞須美容疑者等が所有していたヒ素が同一だった。そのヒ素で保険金詐欺の容疑が掛けられた。眞須美容疑者がカレー鍋のそばにいた。そういう消極的な理由付けしかありません。
実はこのカレー鍋の見張りをしていたときに眞須美容疑者と一緒にいたと当時中学2年生の次女が証言していますがこれが認められませんでした。弁護団は次女の日記にそれを裏付ける記述を見付けたとしましたが、第2審では「誠実に事実を語ったことなど一度もなかった被告が突然、真相を吐露したとは考えられない」と一蹴。これによってアリバイは立証できなかったのです。
ここでいう「誠実に事実を語ったことがない」という第2審の意見には驚きを隠せません。第1審では完全黙秘を貫いた眞須美容疑者ですが、その態度についての言及がこれです。しかし「黙秘権」は当然の権利ではないでしょうか。ところが当時の大手新聞の社説などで遠回しに「黙秘」に対しての非難と受け取れる意見が掲載されています。ここに人権無視とも思えるメディアの危険性を感じます。メディアが犯人らしいと報じると真実はどうかというより先にイメージが先行して「犯人に仕立て上げていく仕組み」はその多くが人の心に潜んでいるように思えます。

カレーに混入されたヒ素はSPRing8による分析の結果、眞須美容疑者宅で発見されたヒ素とカレー鍋への混入に使ったと見られる紙コップに付着したヒ素と同一のものであると同定されました。SPRing8による分析はヒ素そのものではなく含まれていた不純物、すなわち不純物として含まれていたアンチモン、ビスマス、スズ、モリブデンという4種類の金属元素の調査の結果、当時入手できた50種類のヒ素試薬と一致せず、林家にて発見されたプラスチック容器、紙コップと一致したというもの。
SPRing8の分析能力そのものは非常に正確であり実証もなされているのですが、この調査で解ったことは単に「眞須美容疑者の所有するヒ素とカレー鍋で発見されたヒ素は同一」という事実に過ぎません。要するに眞須美容疑者がヒ素をカレー鍋に入れたという絶対な根拠にはなりません。逆に眞須美容疑者が所有しているヒ素を他の者が入れることも可能です。
検察が実証したのは分刻みでの住民証言によるカレー鍋周辺状況ですが、時間が経過すると記憶も曖昧になりますし証言する方にしても「自分が疑われては堪らない」心理はあると思います。記憶が曖昧だった証拠にその後の証言はかなりの変遷をしています。ある種の『誘導』があっても不思議ではない、というのは一般的な見解ではないでしょうか。

実は時同じくして注目すべき事件がありました。
足利事件冤罪の疑惑です。

<足利事件概要>
1990年5月12日、午後7時前、栃木県足利市内のパチンコ店から、当時4才の女の子が行方不明になり、翌朝、近くの渡良瀬川河川敷で遺体となって発見された。また同日渡良瀬川の中から、被害者の着衣が泥だらけの状態で発見された。
その中の「半袖下着」に付着していた精液を、当初県警科学捜査研究所(科捜研)が血液型を分析し、B型と確定した。足利では、79年と84年にも、同様の幼女殺害事件がおこり、未解決だったため、警察はメンツをかけた大捜査を行ったが、半年過ぎても手掛かりが掴めず進展はなかった。
あせりの出始めた頃、市内に住む元幼稚園バス運転手・菅家利和容疑者の名前が、近隣住民に対する聞き込み捜査線上に上がる。アダルトビデオを多数所有していること(ロリコン物ビデオは全くなし)と、聞き込みの刑事に対して話した幼稚園経営者の「そういえば子供を見る目つきが怪しかった」などという証言により、犯人として目星をつけられ、以後一年間毎日尾行される。
菅家容疑者は尾行中の刑事に捨てたゴミを拾われ、中のティッシュに付着していた精液を無断で押収され、科警研で半袖下着に付着していた精液と共にDNA鑑定した結果、1991年12月に「被害者の下着に付いていた精液とDNA型が一致した」という理由で逮捕される。


この事件では「自白」が得られていたのですが、それは取り調べの恐怖から逃れたいという必死な思いから自白に及び、一旦自白すると次々とウソの供述を行ってしまいます。菅家容疑者はIQが77でつまり知的障害者でした。「精神薄弱」という内心まで付いていたのですから仕方のないことだと思われます。しかも当時最新のDNA鑑定を絶対的に信用したのは検察だけではなく弁護団まで絶対視したため現場検証さえ行われず、証言と現場に矛盾があったにも関わらず「有罪」となってしまいます。
DNA鑑定については後に触れますが、アリバイ証言の捏造に触れておきたいと思います。
実は最初に自白したのは90年5月の事件でしたが、79年と84年の事件に付いても菅家容疑者に疑いを掛け自白させてしまったのです。
トコロが79年の事件には当時食堂「中央軒」に勤務していたNさんの証言がありました。Nさんは事件のあった79年8月3日に殺害されたMちゃんを「Mちゃんが、同い年くらいの男の子と一緒に、店の前を渡良瀬川のほうへ逃げるように駆けて行ったんです。時間は午後2時過ぎでした。」と証言したのです。
Nさんは事件を知った翌日に警察へ通報し連日の事情聴取を受けました。しかしこの証言は逆に菅家容疑者には犯行が行えない事を指し示していました。当時、菅家容疑者は幼稚園のバス運転手として勤務。決まって昼休みは自宅で昼食を食べ、午後1時には職場に戻る、という生活パターンで、菅家容疑者の供述ではこの昼休みに犯行を行ったと言っているのです。しかしNさんは午後1時半に出前から戻りMちゃんを目撃したのは1時半から2時までの間だと供述しています。これでは菅家容疑者は犯行を起こしようがありません。そこで捜査員はNさんに調書の改ざんを持ち掛けるのです。

「犯人の自白と、私の証言が、どうしてもつじつまがあわないって、彼らは言いました。『あなたのせいでせっかく自白している犯人を裁判にかけられない』って、遠まわしに責められたんです」
「『私が見たと思ったのは記憶違いでした』と捜査官の一人が私の代わりに口述して、もう一人がそれを調書に書き取りました。そうして<捏造>された調書に署名、捺印するように言われたので、その通りにしたんです。後日、検事さんにも呼ばれ、同じように調書を書き換えられました」

それほど捜査陣にとっては菅家容疑者は何が何でも犯人でなくては困るのです。そこで目撃証言を改ざんしてまで菅谷容疑者を犯人に仕立て上げたのです。

また当時の捜査幹部は「あの馬鹿(菅家容疑者)があれこれ言うのを、こっちがいくら捜査しても裏が取れない。証人も物証もまるで出なかった」と後年になって漏らしています。それに加えてNさんの証言が菅家容疑者のアリバイを証明していました。検察は79年と84年の事件については不起訴処分としました。
「改ざんがバレたら本件(90年の事件)まで無罪になってしまうのでマズイ」
全面自白が得られたにも関わらず検察側は「嫌疑不十分」という奇妙な見解となってしまうのです。

本人が自白したにも関わらず証拠は何ひとつ出て来なかった捜査陣が最後の頼みにしたのがDNA鑑定でした。当時行われた鑑定方法はMCT118という方法です。MCT118とは、細胞核の中の染色体にあるDNA(デオキシリボ核酸)を構成している四種類の塩基配列の特徴によって個人を分類ないし識別するものです。DNAの多型性のある一つの部位 シングルローカスを大量に増幅させ(PCR法)、塩基配列部分の繰り返し数を分析する手法であり、微量の血液や精液斑から抽出された試料によっても検査が可能であることから、犯罪鑑識においても利用が可能で、そのため、同じくシングルローカスをPCR法で.増幅させるHLADQα型検査と共に、その技術は、科学讐察研究所によって開発・実用化されて来ました。
しかし「塩基配列の特徴によって個人を分類ないし識別」というように統計学的な側面が強いのですが、この時点で日本人のサンプルは僅か190人程度。この鑑定法の精度は「1000人中約6.23人」というもので事件当時の足利市の人口は8万2788人。真犯人と同じB型の血液型に該当するのは、性犯罪を行えるのが半分の4万1394人とすると257人が該当。周辺地域も合わせると700人を超えるという精度しか持ち合わせていませんでした。
またDNA鑑定の結果犯人のDNA型は16-26としたのですが菅家容疑者のDNAは18-30だったのです。すると「数字を読み替えればよい」と犯人のDNAは18-30に変更されてしまいます。最高裁では菅谷容疑者の髪の毛で再鑑定した所、18-29という鑑定結果が出ました。しかしこれを無視して上告を棄却されてしまいます。

そもそも犯人のDNA鑑定は正しかったのでしょうか。この泥だらけの「半袖下着」が鑑定されたのは、1年3ヶ月も経ってからで、しかもサンプルは水中にあったもので泥だらけの状態でした。それを乾かしてビニール袋に入れ常温で保存したものでした。鑑定するサンプルとして最良とは言い難いものです。またMCT118は他のDNAが混入すると元のDNAも増幅してしまい正確な鑑定ができないという弱点があります。従いサンプルは-80℃の超低温で保存しなければならないのに東京科研にDNA鑑定を行わせているのです。この時、科研は「正確な鑑定結果が得られない」という理由で一旦は鑑定を断っています。それでも鑑定を強行した理由とは、この事件がDNAくらいしか物的証拠を得られない事件あったに他なりません。それどころか「現場検証」を行うと供述といくらでも矛盾する箇所があり「自供」そのものの確証性が薄くなる事件だったからです。

1992年という年は警察庁が全国にDNA鑑定の運用を始める為に配備する年でした。その予算は1億1600万円。この事件はその前年に当たり、大きく「DNAが一致」と報じられた最初の事件でした。逮捕された25日後にこの予算は通過しています。
警察庁にとってはやっと予算が通過して翌年には本格的配備になろうというのに「鑑定結果が違っていては困る」のです。再三、再鑑定の申出がなされたにも関わらず拒否された本当の「理由」とは、このようなロジックがあったように思えてなりません。

さて「和歌山毒物カレー事件」にも別のロジックが見え隠れします。
1審判決が出るまでに3年、じつに95回の公判が行われました。この回数と期間は刑事事件では異例といえるものですが、自白がなく物的証拠のみで裁判が進められたためであり、その判決文も異例のページ数です。
この裁判で重要なのは1700点にも及ぶ状況証拠を審議し、パズルのように組み立てていった事件だということです。これはプロでも判断が難しいことは先に書いた通りです。そこで問題になって来るのは今年からいよいよ本格的に始まる「裁判員制度」です。もちろん一般の人々が証拠がどのようなものか判定に加わるはずもありませんが、問題なのはこのように長期に及ぶ裁判では裁判員の負担も大きいだろうということなのです。これでは日常生活にも多大な影響が及ぶでしょう。
今回の判決は1審、2審の判例を踏襲したに過ぎず(最高裁はこのようなケースが多いとしても)反証に対する十分な検証が行われたか疑問が残ります。結局「動機はわからぬまま」判決は言い渡され単なる「裁判のスピードアップ」が目的化されたような印象が拭えません。

「疑わしきは被告の利益に」はどうなったのでしょう。
「反省の色がないので死刑」という理論も、この事件では腑に落ちません。無罪を主張するものが「反省」すというのは理屈が通りません。しかもその理由が「黙秘」であれば尚更です。法曹界が社会からの要望(死刑)に応じた感がするのはこの辺りではないかと思うのです。

もしオウム真理教の松本智津夫に死刑判決が出ても「当然」と受け取るのは無理からぬと思われます。既に判決は出ていますが、もし裁判員制度の下で行われた場合、どうなるのか。つまり「当然」の結果を望む裁判員で構成された場合、期待される結果が先に来てどのような審議が行われても結果は変えようがなくなる危険が大きいのではないでしょうか。松本サリン事件を始めとするオウム真理教の事件はかなりの自白と証拠が上がっているので問題はないと考えられるのですが、和歌山毒物カレー事件のような場合、心証が先にあると判断が鈍るのではないかと感じます。歯に衣着せぬ言い方をすると「眞須美容疑者は万人に好かれるタイプ」ではないと感じます(特にキャラクター)
殺人を犯した問題より、集団の中で浮いた存在、あるいは破壊者のような気がしてなりません。このような者に対する集団心理は排除なのであって受け入れる人間は少数派となるのではないでしょうか。
判断にそのような思想が入り込めば「国民総意のリンチ」になってしまう可能性は高まると思われます。
法曹に「国民感情」を反映させる目的は、本来有罪判決が出ても法で規定されている以上に罰することが出来ないことが原因だったと思うのですが。例えば汚職事件などです。

先に述べた松本サリン事件は誤認逮捕でした。逮捕された河野義行氏は被害者にも関わらず逮捕され、当時はメディアも完全に犯人扱いでした。僕は当時「この人は犯人ではない」と直感的に思いました。
番組名は失念しましたが、当時「無罪」を主張した報道番組がありました。取材して犯人ではないとの結論までを放送した唯一の番組だったのではないかと思います。この番組を観て直感は確信に変わりましたが、周囲は容疑者なのに「犯人」扱いでした。もし番組名を覚えている方がいらっしゃいましたら書き込んでくださると幸いです(夜10時台の番組だったと記憶しています)
河野氏は違った観点から「死刑反対」を唱えていて、死ぬ事で彼等が「殉教者」になる事を恐れているそうです。どうも単純ではないんですね。

僕の中でこの事件が「冤罪の恐ろしさ」を思い知らせてくれた事が今回の記事につながりました。

もし白の可能性が少しでもある容疑者を「死刑」と判断する勇気はあるでしょうか。

<追記>
裁判員制度の模擬裁判について毎日新聞が報じていましたので掲載させて頂きます。

裁判員制度:模擬裁判630回 垣間見た市民感覚
2009年4月28日 2時30分

 刑事裁判に市民が参加する裁判員制度が5月21日に始まるのに向け、模擬裁判が全国の地裁・支部で4年間に約630回開かれた。これまで裁判員役の率直な意見が報道されてきたが、本番では裁判員個人の意見など評議の中身は公表されない。模擬裁判で飛び出した裁判員役の発言は、先入観にあふれたものから、冷静な判断までさまざまだ。【まとめ・松本光央】

 ◇先入観
 さいたま地裁で開かれた傷害致死事件。男性がサンダルで踏みつけられて死亡、被告は直前まで一緒に飲んでいた職場の同僚の男との設定だった。事件が起きたのは10月。自営業の40代男性は評議の場で「10月にサンダルを履く人は少ないはず。被告が怪しい」と発言した。裁判長は「推測や直感でなく、証拠で判断して」と注文した。

 福岡地裁で行われた傷害致死事件の模擬裁判では、被告の事件前のわいせつ行為や飲酒運転に着目した60代の男性が「被告は基本的な社会規範を逸脱している。私は最初から犯人説だ」と断言し、50代の主婦も「飲酒運転もしている」と同調した。やはり裁判長は「逸脱行為から死亡させた行為を認定できるとはいえない」と証拠に基づき判断するよう求めた。

 ◇情
 スーパーでの万引きに失敗し、逃走中のもみ合いで男性店員に重傷を負わせたという強盗傷害事件。京都地裁で逮捕歴のない21歳無職の男の被告役を演じたのは、細めの体形に優しそうな顔の男性。量刑を巡って裁判員が意見を出し合ううち「気が弱そうで実刑は可哀そう」との意見が出た。

 タクシー運転手が車内で殺され金を奪われた強盗殺人事件を題材にした静岡地裁でも「被告の顔はとても強盗殺人を犯すようには見えない」との発言が出る一幕があった。

 ◇理
 タクシー強盗を企てた男が強盗致死罪などに問われた大津地裁の模擬裁判では、遺族の処罰感情を量刑に反映させるかに議論が集中した。農協職員の40代男性は「遺族感情を考慮するということは、極端に言えば家族がいない人が被害者ならば被告の罪が重くならないということなのか」と疑問をぶつけた。

 京都地裁での強盗傷害事件では、情状酌量を巡って公務員の50代男性が「例えば親の不治の病の薬代のために盗むなどの事情でないと認めるべきではない」と発言した。

 ▽元東京高裁判事の高橋省吾・山梨学院大法科大学院教授の話 先入観や見た目で判断するのではなく、法廷で取り調べられた証拠に基づいて事実認定をするのが鉄則だ。評議の場では遠慮なく質問して自分の意見を述べてほしい。他の人の意見も聞き、自分の意見が誤りならば固執せず、より良い意見に変える柔軟性が求められる。そういう意味での「乗り降り自由」が原則であってほしい。


-引用ここまで-

この頃、Excelのマクロ開発で関わっていたある人のご子息が裁判所の方で、まさに裁判員制度の整備に携わる当事者だったこともあって、そうした意見の交換をしたことがありました。私自身も事業的に法律を勉強していた時期ということもあって、少なからず前のめりな意見を持っていました。
後半で触れている「足利事件」は、これを描いた時点で冤罪が確定していませんでしたので、もしかすると無罪の大逆転が出るかもと注目もしていた時期です。
何しろ長文でいくつも事件を例にして意見を書いてるんですが、結論としては「結果論ありきで判断してはいけない」と言いたいわけですね。物事を判断するとき大事なのは客観性と証拠です。印象論や主観論は慎むべきです。毎日新聞からの引用がこれを実によく表していると思います。
先日も「まんだらけ」の防犯カメラの公開騒動がありましたが、これだってもし犯人が違っていたら謝って済むような問題ではありません。「盗った方が悪いのだから」と画像公開は是とする意見もあったようですが、こういう意見が多数になることは独裁者の統治する国ならいざ知らず、法治国家の日本では警戒するべきだと思われます。一歩間違うと集団リンチを肯定することにもなるだろうと思いますね。
何しろこの引用記事のタイトルは「国民総意のリンチ」ですから。


** イベント参加予定 **


【第37回クリエイターズドーム(CREDO)】
日時:8月23日(土) 11:00~16:00
場所:ガレリア竹町ドーム広場



【vol.38 ものづくり発見市】
日時:8月28日(木) 11:00~16:00(18時までには完全撤収)
場所:大分市中央町2丁目5-3セントポルタビル1F
   (トキハインダストリー若草公園店軒先)



【第20回アートマーケット】
日時:9月13日(土)14日(日) 10:00~16:00
場所:大分市荷揚町 3-31 アートプラザ




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