電話が鳴りました。
入居者の斡旋をお願いしている不動産会社からです。
不動産会社からの電話は良い話か悪い話のどちらかがほとんどです。良い話は新しい入居者が決まったときで、悪い話は退去の申し込みがあったとき。私が期待しているのはもちろん前者です。
それ以外の話題は心当たりのある時期にしか聞く機会がありませんから、今日の電話は良い話か悪い話しかありえません。

先ほど店に○○さんがお見えになりまして…

その後のセリフは聞かずともわかっております。悪い方の話ですね。
転勤命令が出たので今月いっぱいで退去ということです。
ダメ、あなたが出て行ったら私たちどうしたらいいの、と引き留めたいところですが、それができればこの話が悪い話じゃないはずです。

表面的には35年家賃保証などという、如何にもリスクが低そうなイメージでCMを打ってオーナーを募集していますが、実際はそんなに甘いものじゃありません。入居者が満杯なのは最初だけ。入居者が減れば何か見直しをと、保証会社から相談があります。相談というと聞こえは良いですが、実際には有無を言わせぬ命令のようなもの。しかも見直しの内容は、特段目新しいビジネスモデルの提案などではなく、家賃を見直しましょうです。家賃が上がることは滅多になく、通常は下げることばかり。こんな方法はバカでも思いつくものです。
実は、80%入居というモデルケースはかなり楽観的。借り手市場の現在は、少しでも需要と供給のバランスが崩れると長期空室というのが実情です。最初の営業マンの威勢の良い「大丈夫」は大丈夫でないことがほとんどです。

どんなに気に入った部屋でも、転勤となれば退去するしかありません。
退去の理由は気に入っていようがいまいが関係なく訪れるものです。この商売を始めてわかっていたことですが、思った以上に本当の自己理由で退去する人は珍しいのですよ。
今年は不運なことに遠方への転勤が相次ぎました。しかも時期も繁忙期をとうに過ぎた5月終わりです。気に入って下さった方だと、後任者へ推薦もしてくれてたケースもこれまでありましたが、今回は人員補充がないとのこと。どこの世界も世知辛いものです。
こういう時期に埋めるのは至難の業です。ただ、家賃保証を受けている物件では定期的な家賃見直しがありますが、斡旋契約のみなら家賃の相談は希望者から要望がなければそのままのことも多く、特に無茶な要求は、悪質入居者になる可能性があるので華麗にスルーされるのが普通です。
言い方は悪いですが、ひとりでも質の悪い入居者が入ると、途端荒れ始めると言われるこの世界。凌げるなら首を横に振る勇気も必要です。

私は当初から家賃保証を付けることには反対でした。だから家賃保証は受けていません。物件が高稼働率なうちに稼いでおかないと体力が衰えることや、自主管理する物件に管理費は無意味だったことなど幾つも理由はありました。だいたい30年以上家賃保証ができた実績すらありません。
しかし、最大の理由は、数ある事業で売り上げを保証しなければならないものはないからです。
賃貸は長期にわたる商売だから、という意見もあるでしょうが、それは他の事業も同じです。会社がある限り、従業員がいる限り毎月売上なきゃならないのは、どこも同じ原理です。賃貸だけが特別じゃないでしょう。
はっきり言わせてもらうと保証がなければできないような賃貸物件は最初から存在する意味などないのです。
それなりの需要があり、独自の魅力やセールスポイントをオーナーが生み出せないようでは、そもそもビジネスですらありません。事業計画書を自分で作れない経営者など経営者ではありません。

家賃保証は高稼働率の物件と低稼働率の物件で埋め合わせているという理屈はウソです。高い稼働率の物件が想定以上減れば、このロジックは簡単に崩れるとわかるのにそれを保証する根拠はどこにもないのです。できない可能性があるのものをどうして信用できましょう。
営業マンの甘い言葉に乗る前にオーナーの皆さん、冷静に考えてみて下さい。