nakagin_2014-0819-090559.jpg

http://news.yahoo.co.jp/feature/20

東京銀座の「中銀カプセルビル」が建て替えか保存かを巡って住民の間で議論になっているそうです。実はもっと以前に「取り壊し」のニュースを聞いて驚いていたのですが、その後に頓挫していたそうです。
中銀カプセルビルは黒川紀章の設計です。黒川紀章は丹下健三の研究室出身で、大分を代表する建築家磯崎新とも非常に深い関係でもあります。丹下事務所からは槇文彦などといった多くのモダニズム建築家を輩出しています。谷口吉生の法隆寺宝物館とか、そりゃーもう、それだけでご飯が3杯くらい食べられそうな建物です。
丹下健三は東京計画1960において、戦後から急速に復興し1千万人に人口が達しようとしていた東京の未来計画を行います。これは単なる都市計画というより、社会の新秩序をも内包するような思想的試みでした。その後、そうした流れの中で磯崎新による複数のコア(エレベータや設備等が配備された垂直シャフト)の間をオフィスがつなぐ「ジョイント・コア・システム」や黒川紀章が「メタボリズム(新陳代謝)」を提唱します。
都市は社会構造や人口などが急激に変化しています。それに合わせて有機的に成長できる建築というのが黒川らのメタボリズム・グループで、その代表作とも言えるのが中銀カプセルビルです。

この建築物の特徴は中心にエレベータや配管設備などを集約して収めたコアに葡萄の果実のように取り換え可能なカプセル状の居室が接続されているところにあります。一見すると、このような構造は磯崎の提案でも見受けられますが「取り換え可能なカプセル」に黒川の特徴があるのです。どちらかというと師匠にあたる丹下健三が設計した静岡放送東京支社ビルの方が磯崎の影響です。このビルも銀座にあるんですよね。

中銀カプセルビルが建築されたのは1972年。現在43歳です。
筑後30年を経過したあたりから設備の老朽化に伴い建て替えの検討が始まったといいます。その後、内装に使用されていたアスベストが決定的な理由となって建て替えに向かったのでした。この話題がキャッチできたのは、ちょうど私がこの物件の設計をやっていた時期と前後していたからだったはずです。アスベストによる中皮腫が社会問題になっていた時期でもありました。
設備の老朽化は思っていたより深刻で、一部では水が漏れて住むことさえもできない状況ですし、給湯器が故障して使えないため居室にあるユニットバスは現在使えず、1階にある共同浴室を利用しなければならない状況。正直言って、給水排水設備のリノベーションは建物の寿命を決定する重要な要因です。私たちの体で言えば血管のようなもの。これが一部で壊れて使い物にならないのでしたら、体は死んでいきますし、規模によっては大手術です。この辺りで「どうしよう」と取り壊しを視野に入れた検討が始まっても仕方がないと思います。人間と違って建物は使わなければ済む話ですから。
そうした事情から物件を運営する管理会社も管理不能状態ですが、この物件が抱えている問題は分譲であるということです。これが更に話をややこしくしています。

分譲マンションの場合、建て替えには全世帯の80%を超える賛成がなくてはなりません。中銀カプセルビルでは現在140戸に対して120戸ほどの住民が居て、賛成は70%に留まっています。それというのも、この物件が持つ独特な魅力によるものです
特徴的なまるで鳥の巣箱を積み重ねたような外観と家具や電化製品がビルトインされた内装。70年代のテレビがそのまま残された部屋がありますが、それはフューチャーレトロそのものです。もちろんデジタル放送化で使えないものですけど、デザインとして面白い。だから建築家やデザイナー、アートクリエーターが多く集まるのもわかります。同潤会アパートも同じような理由からだったと思われます。どちらもその時代の中で精一杯のことをしようとしてるんですから、異彩を放つ存在です。
私は学生時代にこの建物を授業で知ったんですが、詳しく知ったのはそれよりずっと後のことでした。日本のポストモダン建築を紹介した本で分譲マンションだったことを知ったんです。最初は名前から銀行の建物だと思ってました。
こうした建物ですから「残したい」という気持ちはとても良くわかります。時代を経て使い難い面もあるでしょう。でも、こうした建築物は単なる建物だけでなく、一種の文化だと思うのですね。それに共感した人々が残したいと、あるいは修復したい思うことは当然です。

でもです。大分市のアートプラザの斜向かいにあった大分医師会館は建て替えになりました。
現アートプラザは旧県立図書館として大分県出身の磯崎新によって設計されたものです。大分医師会館はほとんど同じ時期に設計されていて、言ってみれば兄弟のような建物でした。私は幸運なことに、医師会館内をこの目で見ることができました。民間の建物ですから普通は自由に見学できないので貴重な体験です。
この建物の内部にはキャットウォークがあるんですけど、それがダイナミックな内部構造を象徴していて、とても感激しました。ですから一部でこの医師会館保存の動きがあることを知り、アートプラザに出掛けて行きました。そこで現実を知ることになります。

展示のコーナーには意見を書けるノートが用意されていました。多くは「保存して欲しい」という要望でしたが、ひとりだけ長文でこの建物を保存することによってどれだけ市の財政に負担が掛かるのか、またその費用を負担するだけの覚悟があるか、そういうことが書かれていました。
そうなのです。こうした建物を壊すより維持することの方がとても費用が掛かるのです。それも耐震補強や傷んだ部分の修復も含めると、すでに県立図書館が保存されていましたから、とても大きなものになることが予想できていたのです。保存を主張するなら、少なくとも費用をカンパするなどの痛みも伴っての保存か、と覚悟を聞かれていたのです。
結局、私はそのノートには何も書かず、降り出した雨の中を何と表現していいかわからない気分で帰って行ったことを覚えています。

中銀カプセルビルのリノベーションには1億7千万円という見積りだそうです。修繕積立金が現在1億円。不足分7千万円を調達できれば保存への道も開けますが、建物の規模が大きいだけに金額もそれなりになります。話し合いを行っても平行線なのは費用のこともあると思います。
これは皆さんも例外なくいずれ向き合わなくてはならない問題です。現在、持ち家で戸建てなら修繕か建て替えかは個人が決めることですが、分譲マンションなら住民の意見がどちらに傾くかで決定します。それが決裂するケースを聞くようになりました。それって、建て替えが必要な物件が増えてきたことが原因です。日本の集合住宅は歴史が浅いので、購入するときにこうした問題を経験せず購入していたからです。
賃貸ならむしろ話は簡単(ではないけど)
老朽化を理由に退去願いの流れになるからです。入居者は所有者ではないので、資産価値がどうとかいう問題ではなく「借家法」による賃借人への過剰な保護の問題になります。

これはね、建物を所有したら避けられない問題です。いずれ私の物件も直面する問題ですよ。
現在12歳のこの物件があと30年したらどうなるか。
因みに、中銀カプセルビルを摂家した黒川紀章と、この物件を設計した私はほぼ同じ年齢でした。あれは、かなり攻めたデザインで野心作ですけど、私もいろいろと攻めたものにしようと意気込んでましたから、そういうものってわかるんですよね。

30年後に建て替えと保存で意見が分かれて…まぁ、ないか。


本日は「鶏のポワレ香草ソース焼き」
下拵えした鶏もも肉を2%塩水に半分の砂糖を加え、ローリエとローズマリーにレモン果汁を加えたソミュールで処理して焼きました。付け合わせのベーコン、玉葱、南瓜を焼いたフライパンにニンニクを入れてローストし、取り出して鶏肉を投入。最後に人参のグラッセに使ったコンソメを加えてソースに。
塩とカラメリゼノ風味、野菜の味、香草の風味だけで味付けします。最後にミヨネットして完成。
もも肉なので柔らかく味も風味も抜群です。