Tape-dispenser-50mm01.jpg

Tape-dispenser-50mm02.jpg

いつもなら「大変」とは滅多に言いません。大変なことを涼しい顔でやってのけてこそ「プロ」と思っているからです。
しかし、今回ばかりは「大変だった」と言わせてください。
最大の問題は、こちら側の思わぬ誤差によるものです。

今回のお題は「マスキングテープディスペンサ」
*Clear*が以前から作っているモデルです。しかしお客様の要望は「幅50mmのテープ1本」で、更に「作業で使うので左手のみで操作できること」
そのため、重量は1000gが基準でした。
古くから*Clear*の作品をご存知なら、このディスペンサの刃がオリジナルであることも良くご存じだと思われます。幅15mmのマスキングテープを複数装填し、片手でスパッと切れることが売りです。
これまで何台も制作し、その完璧さには定評があります。
しかしながら、今回は50mmのテープで未体験。それ以外にも、こちら側での環境が変化していたこともあり、確実に切れるのか不安要素の多いオーダーだったのです。

計算上では、要望の重量はかなり近いところが出そうでした。ただ、相手は天然物の木です。それこそ計算通りの比重値であるはずはないのです。
こちらは実際にウェイトまで詰めて軽量した結果、見事1000gを超えました。
これでひとつクリア。

ところが問題は刃の方です。
実はプリンタに不具合が出ており、上手くいけばいつも通りの結果が得られますが、そうでない可能性が高い状態でした。
結論から言ってしまうと、散々な結果でした。
今までの目的なら、多少甘いながらも、そこそこの性能は確保できそうでした。15mmのテープでテストしましたら「ちょっと甘いが使えないことはない」というもの。でも、この手応えは「50mmヤバいんじゃない?」でした。
はい、そのためだけに購入してテストしてみましたよ。で、結果が惨敗。
もちろん予想はしていたとはいえ、さすがにその結果は私の精神ダメージを大きくしました。しかも刃を作るまでに2日も費やしていましたから、そのダメージは計り知れません。

ここでお客様に連絡しました。仕様を変更し「市販の替え刃」を使わせてください、とお願いし承認を得ることです。最初のした約束と違うことをするのに、勝手にやってはいけないはずです。
お客様のお返事は「お任せしているのでどうぞ」との寛大なお言葉。感謝しつつ、加工するわけですが、すでに形は出来上がっており、慎重に鑿を入れて行かなければ全てがオジャン。非常にプレッシャーのかかる作業となりました。
実はそれで寝付けず、夜中から作業を始めてしまいました。仕上がりはご覧の通りです。

さて、先も書いたようにオリジナルの刃を作っていまして、その証明として*Clear*の銘が入っています。つまりこれは私の誇りです。
しかし、私は自分のそうした部分に「こだわり」ません。
最優先しなければならないのはお客様の「ご希望」だからです。そして絶対に譲れない条件は「片手でスパッと切れること」だと思いました。そのために自分のデザインを優先すべきではありません。
プロダクトとは、お客様の問題を解決するものです。アートとの最大の違いは「自己表現」のためがアートであって、相手は後からやって来るという違いです。モノ作りには先に「問題」があり、そこに最適な回答を下す作業だと考えています。特にこうした少量生産のものこそ、これは絶対に譲れないものなのです。
満足させられないことに対して「手作りだから」という理由はあってはならないことですし、恥ずかしいことです。

日本のモノ作りは世界一だと思います。
それは何故かと言いますと、お客様のために一生懸命努力する人が作っているからです。この国で、そうでない人は少数派だと思います。利他的精神ですね。
これは日本の文化です。他国の文化では見受けられない精神です。
こうした日本人の文化が世界を席巻すれば、世界は本当に平和になりそうなのです。苦しいときこそ、力を合わせられる日本の人々ですが、外国では逆です。震災など起きれば一般人が窃盗を働きます。日本人は誰も見ていなくても盗るのは「恥」と思う文化ですし、弱い人を助け強きを挫くのが骨の髄まで滲みています。そういう国に生まれて良かったな、と思いますよ。

ところで、刃の固定方法は極めて単純明快で、考えれば誰でも思いつきそうです。ですから、勿体ぶって隠したりしません。
刃が収まる逃げ加工して、同じ寸法で切り出した押さえ木をビスで共縫いにすれば、確実に固定でき、万が一、刃が損傷した場合も刃を交換することができます。決して安くはないのですから、長くメンテナンスして使い続けていただける配慮です。
正確に加工さえすれば良いのですから、モノ作りをしている人ならば誰でもできることです。ただ、調べてみたとこと、この方法で作っている人は見つかりませんでした。調査方法が悪いのかも知れませんが。

どの仕事も忘れられませんが、今回の仕事は特に記憶に残るひとつでしょう、間違いなく。
しかも、こうして新しい手法を考える機会を与えていただいています。私たちはお客様に育てられています。こうしてご要望を出していただくことで。
それが掛け替えのない「糧」になっている、そう感じます。

動作はFacebookから埋め込んでおりますのでご覧ください。