最近じゃプロでもビス一辺倒な感じがする木工業界です。
昔の職人はビスや釘をほとんど使わず、組み手だけによる作品を作ることが一流の証でした。中にはどんな仕組みで組まれているのか分からないような組み手で作られた作品もあり、匠の技にため息が出るばかりです。
ウチの作品でもビスのメリットは理解していますが極力使わないようにしています。
どうしても使う場合は木栓で埋めてビスを隠しています。ボンドで接着してギリギリでカット、サンディングでツライチにします。コイツは目立っちゃダメなんです。
逆に釘は良く使います。
錆びさせて使ったりそのままだったりですが、素朴な感じがすることもあって多用します。
多分、古いものが好きだ、という理由が一番なんだと思います。

ところで釘を打ち込む道具はなんでしょう?

トンカチ、カナヅチ、ハンマー、果ては凍らせたバナナ(歳がばれるなぁ)
色々な答えが得られそうですが、トンカチはブーブーなんかと一緒で幼児語でしょうから、いい大人が使うには相応しくないかな。救急車をみてピーポーは恥ずかしいですもんね。
舞台や放送業界では「なぐり」
金属業界では単にハンマーだと思われます。
業界独自の呼び名がありますが、
木工の世界、大工の世界では「玄翁」が一般的です。

打撃を与える道具は和名では「槌」英語ではハンマーですが、素材によって呼び名が変わり大きく分ければ3つに分類できます。

金槌…ヘッドが金属製
木槌…ヘッドが木製
その他…金属でも木でもないもの。プラスチックやゴムなど

目的によって様々な種類があり金属加工用ハンマーは片方がボール状になっていますが、この部分はリベットを潰すのに使います。先が尖ったハンマーは主にケレンを目的にしています。溶接のビート膜を除去したり錆の除去に使われたりします。
金槌以外のハンマーは傷を付けたくない場所に使います。勿論、当て木をすることで金槌も使えますが、両手が塞がるので不便です。
釘抜きが付いたハンマーもありますが、釘を〆るのに二徳や三徳(本来は釘〆)と呼ばれるものに釘抜きが付いているのであまり需要がありません。

玄翁というのはヘッドが両面に付いているハンマーですが、片方が平らでもう一方は少し丸く(木殺し面)なっています。叩き始めは平たい方を使い、最後は釘の頭を埋めるのに丸面を使います。
玄翁の由来は玄翁和尚が殺生石を叩き割るのに金槌を使ったから、という説がありますが、これは後付けのような気がしますね。その手の作業にはもっと質量のあるヘッドが必要でそういう目的のハンマーは「セットウ(俗名?)」というハンマーを使います。
釘を打つのは腕の力で強引に叩くのではなく、ハンマーの重量を使って叩きます。釘に接触する時に極力釘に平行になるよう意識すれば意外にも簡単に釘が打てます。
釘が抜けないのは木材との摩擦があるからですが、錆びることによって表面がビスと同様の効果を生み更に抜けなくなります。ビスも絞め込んだ際に表面のメッキが剥げ同様の効果があります。ユニクロメッキ1種では一度絞め込んだビスでもメッキが剥がれ非常に錆びやすくなります。

クロメート処理における光沢仕上げは、米国、ユナイテッドクロミウム社が開発した処理方法で、その液はユニクロムディップコンパウンドといわれるところからユニクロメッキと呼ぶようになった。通常、六価電気亜鉛メッキされた青色から銀色のものを指し、有色の2種メッキとは分けられている

更に先人の知恵で複数の釘を少し角度を付けて打ち込むことにより、楔のような働きが生じ抜け難くなります。
時折、材料が割れてしまうことがありますが、これは入って行く物体の大きさに材の柔軟性が追従できずに破断してしまうからです。これはビスでも同様ですが、材の種類や白太か心材かでも異なりますし、同じ材でも節のように硬い部分では顕著に発生するので材を見極める必要があります。
下穴を開けることでかなり回避できますが、釘が摩擦を利用した緊結法なので下穴のサイズが問題になります。はめあい公差で言えばしまりばめですから釘のサイズより小さく開けなくちゃ意味がありません。
ところが1/4インチシャンクのドリル刃は1.5mm以下がないので隠し釘などではサイズが大き過ぎます。これより細いドリル刃を使えるアダプターも販売されていますが、刃が折れやすいのであまり現実的ではありません。そこで深さによる調整が必要になります。
F50の隠し釘では軸径が1.47mmですからドリル刃が0.03も大きく、釘の長さ全てを掘ると釘の締結力がなくなります。ですから打ち込む側の材厚1/2程度までで下穴を止め単なるガイドとして利用します。特に隠し釘は打ち込みの途中で横から叩いての角度修正ができませんから、下穴作業は慎重に行います。隠し釘に下穴を用いない場合もありますが、長さが長くなるほど下穴の有難さが出てきます。また価格も割高ですが、潰し釘より釘目が目立たないので結構多用します。
スリムビス(スレンダースレッド)は通常のコースレッドより割れ難くしたものですが、場所によって割れてしまうので万能ではなく下穴を開けた方が確実。2インチのSPFを締結するには75mm以上のビスが必要ですから下穴とインパクトドライバーの組み合わせでないと十分な締結力が得られないこともあります。そこで下穴を開けるのですが通常のビスは先端からテーパー状になっていますからビス全長の下穴を開けると先端部分の締結力が期待できません。下穴専用キリはテーパーが付いていますのでやり方が異なります。
軸の寸法は3.3mmと3.8mmですがそれぞれ3mm、3.5mmとやや小さい下穴を全長の70%程度まで入れます。先端は自分で材料に切り込んでいくので全てのねじ山がしっかりと働いてくれます。
さて、ビス、釘共に重要なのは一箇所に必ず複数打つ、ということです。ビスは引き抜き方向へは高い強度がありますが回転方向には殆ど強度が期待できません。だから1本だけ打ち込んだ場合、回転端となり曲げモーメントに対しては無力です。半ねじは顕著。
足はスパンが長いので特に締結方法と部材の組み合わせを慎重にしたいもの。

kouzou.gif

簡単なスツールの例。赤い線はビスを表しています。
左の結合では横方向の力が加わると抵抗するのは上部に揉まれたビスの引く抜き抵抗だけで受けますが、範囲が狭く材料の端点まで距離が長いので小さな入力でも材料破壊点に達します。
右は足元に繋ぎ材を四方に回した様子ですが、こちらの方がずっと頑丈そうに見えないでしょうか。
同じ力が加わっても抵抗する材が増え分散するだけでなく、入力位置から近いので大きな力になりません。梃子の原理です。
但し同一箇所に4本ものビスを揉むとそこだけ弱くなる可能性もありますので、繋ぎの位置をずらす、繋ぎ同士に一本渡りで材を噛ますなど様々の接合方法があります。その中でも特に優れた結合はホゾ組みにすることでしょう。接着面積が増え引き抜く力ではなくせん断方向でモーメントに対抗できるので釘でも十分な強度が期待でき材料の損失も最小限です。
ただ難点は非常に手間が掛かることです。硬すぎても緩すぎてもホゾの役をしませんから高い加工性を求められるのもネックです。
実際にホゾ組みしたものですが

hozo.jpg

あっ、写真を間違えました。

hozo2.jpg

こちらです。子供用の椅子。
足にホゾ穴が開けられ組まれている様子がわかるでしょうか。これは片胴付き平ホゾ。
一方しか見えないですが、もう一方はそれぞれ高さの半分の寸法にすることで位置をずらしているから。
足の長さが短く下に繋ぎを入れられないことが分かっていたんで、全て組み手仕上げにしました。
ホゾに入れるときは叩き込むくらいに調整していますから木槌やプラハンで傷付けないよう叩き込みます。
松風堂さんにあるアンティーク釘の壁掛けには四方胴付きホゾ加工をしています。

ということで*clear*は昔ながらのトンカチ

…じゃなくて玄翁を振るっております。

でもね建築現場では玄翁でもなくなってきて釘撃ち機が主流だというのはナイショデス。