我が社の社長が言う「対価」とは何かから「なぜ対価を支払うのか」にテーマを移して、このお話を終えたいと思います。
私は木工が担当ですから、その企画についてお話したいと思います。

私は必ず図面を描いて制作に入ります。意外に簡単な作品のようなものでもCADで図面を引き、その後はいつでも出せるよう管理しています。
今もちょっと難しい構造のオーダーが入っており、図面を描いている最中です。
理由は材料の管理が楽になるとか、制作上のミスを防ぐためだとか色々あるわけですが、最大の理由は「使える品物かどうか」を図面で判断することにあります。

例としてマスキングテープのディスペンサでお話します。
テープカッターと言う人も見受けられますが、ディスペンサが正しいです。
それで例として他の人の作品を引用すると、個人的な誹謗中傷にあたりそうなので、記憶からこういうタイプのものを作図してみました。

Tape-dispenser01.jpg

このタイプのディスペンサはいわゆる箱モノに切り込みを入れ、そこにテープを通した芯棒を置く、最も単純な形式です。このタイプを実際に使ったことのある方もいるでしょう。
正直なところ使い勝手はどうでした?
おそらく非常に使い辛かったと思われます。
テープを引っ張ればディスペンサごと動いてしまい、切ろうとするとテープがズルズルと滑ってうまく切れない。結局、両手でテープを切ることになり、およそ実用性とは程遠い品物だったのではないかと思います。華音社長も同じようなものを昔購入して泣いた口です。

申し訳ないのですが、快適な作品にするとは実際にどのような作業をするのか想像し「どうすればそのようなプロダクツになるか設計」しなければまともな製品にはならないからです。
当たり前ですが、テープを切る作業は片手で行うことが圧倒的に多いはずです。
このテープディスペンサはそういう意味では「快適になること」の丸っきり逆を行っているから使えないのです。

幾つも理由があるので挙げてみたいと思います。

1 テープディスペンサの芯棒がフリーであることで芯棒が外れる可能性が高い
2 左右の切り欠きがわずかでもずれると、テープはどちらかに寄ろうとする
3 テープと刃との相関位置関係を力学的に考慮していないため、刃の位置が低過ぎる
4 3のために刃を横向きに設置しても実際にはずべり止めの機能がない
5 刃はラップ用か金切り鋸の刃が多いが、どちらも紙のテープを切るには適さない形状である
6 箱状であるため指を挿入するには不自然
7 重量が軽過ぎる

これだけの理由があればうまく機能しないのは当然です。
いくつかはユーザーが工夫したり、我慢したりすればいいのかも知れません。しかし、そのようなことを強いる製品はお客様をナメテいるとしか思えないのです。そういうモノを売るという神経が私には理解できません。

で、どうすれば使える品物になるかですけど、上記の欠点と全く逆に作れば、まずまず使えるディスペンサになるだろうと予想できるはずです。
たとえば刃などが好例で、ラップの刃を横向きにしたのでは切れるはずもありませんし、金切り鋸の刃は金属を切るために刃高が低くピッチは細かく、刃厚があるので片手で操作すれば全く切れません。
片手で押えて引き下げると切れているようですが、実はそれ刃がなくてもあまり変わらない気がします。

マスキングテープの材質から考えると、薄い紙ですから切断のメカニズムは刃先が紙に刺さり、徐々に広がって繋がっていた部分が耐えられずに千切れることで切断されていると考えられます。
一見、使えそうだったラップの刃も良く見れば、刃先がやや丸くなっており、フィルムのようなものでは切断できますが、紙などにはうまく刺さってくれないのです。第一、ラップは片手では切れません。

結局、よく考えずに材料を選定した結果、使えないディスペンサを作ってしまっています。

私は適当な部品がなかったせいもありますが、できるだけオリジナルにしたかったので刃とテープの滑り止めの部品を自作しています。
今だから言うんですが、この刃の製作方法を色んな方面から尋ねられました。正直うざかったです。
これが嫌でしばらく作らなかったのは結構あります。

多分、それなりの知識がある人なら思いつく方法だと思うものですし、ネットで検索すればヒントどころかズバリ方法そのものがヒットします。実際はその通りにやってもできないものなんですが、そのためにどれくらい失敗を重ねたのか。
そういうことを安易に尋ねて教えてもらおうというのは少し虫が良すぎです。
少しは自尊心というものを持っていただきたいと思いますね。
大体、日本人はノウハウや情報をただで手に入るものだと思い過ぎています。本来そういうものこそ対価を払って手に入れるもの。その最たるものが学校だと思います。

私が作りたかったのは、片手でスパっと切れる気持ちのいいものでした。しかも卓上で使うので極力コンパクトであること。そのために様々な工夫を凝らしました。

Tape-dispenser02.jpg
Tape-dispenser03.jpg
Tape-dispenser04.jpg

これでもまだ理想とは程遠いですが、かなりの使用感だと自負しています。
他の方の作品より高いことは理解しています。他の方からも言われたことがあります。
「手間が掛かっているのはわかるけど、その価格では売れない」と

私の信念なのですが「自分が本当に欲しいモノだけしか買わない」人間です。多分、異常なほどこだわりが強くて、自分の好みに合わない物をを周囲に置けないのが原因です。
どんなに安くても使えないものなんか買う気は更々ない私からすれば、手頃な価格で使えない代物やくだらないデザインは死に値するくらい苦痛です。
それよりも心血を注ぎ込んだモノは、買えなくても見るだけで嬉しくなるし、そういうプロフェッショナルな精神に感動します。私はそういう人々が好きなのでしょう。

イベントは玉石混合でホビー感覚の人もいれば、それを生業にしている人までいますが、生業にしている人は企画に使える時間も限られています。
以前にも書いたような気がしますがホビーの人こそ利益にも時間にも拘束がないのですから、本当に良いものを作って欲しいと思います。だってアナタそれで食べなきゃならないのではないのでしょう?

私はプロフェッショナルですから、制作する時間も製図する時間もすべて分刻みです。
如何に効率よく最良の効果が出るのか長い年月をかけて蓄積したノウハウを仕事に発揮しているのです。自己満足のために精度を追求したりはしません。
必要な場所に然るべき精度が必要なのであって、下らない自己満足のためのあるのではないのです。

ましてや、小遣い稼ぎ程度でお客様を小馬鹿にするようなものを売るようなハイエナはこのステージから去るべきとさえ思っています。
こう言われたくなければ本当に感動できるようなものを作ってください。
できない自分を言い訳するために「趣味」という言葉も使わないでいただきたいし「趣味」に対しても失礼です。

アナタはどのようなカタチで人を喜ばせているのでしょうか?


** イベント参加予定 **


【第31回クリエイターズドーム(CREDO)】

日時:1月25日(土) 11:00~16:00
場所:ガレリア竹町ドーム広場



【大分ものづくり発見市】
日時:2月1日(土) 11:00~20:00
場所:大分市中央町2丁目5-3 セントポルタビル1F(トキハインダストリー若草公園店軒先)